宝物は星の数ほど



 夏休みの真っ最中にくんに誘われて来たスカイタワー、展望台から望む景色は絶景の一言だ。
「秀尽、見えるかな」
「どうだろ」
 隣のくんと蒼山の方角を指しながらきゃっきゃとはしゃいでみる。周囲にはわたしたちと同じように外を指さしながら会話に花を咲かせているグループもおり、その中にはカップルも少なくない。
 わたしとくんはただのクラスメイト、ただの友達だ。でも、もしかしたらわたしたちもカップルに見えるのかな。やっぱり、見えるのかな。……見えたら、嬉しいな。
 そわそわしながら横目でちらりとくんを見ると、ぱっと目が合ってしまった。
「あ」
 視線と声が重なって、わたしは思わず顔を逸らしてしまった。
「……景色、すごいね」
「う、うん……」
 冷房の風が当たっても、赤くなった頬はおさまる気配はない。それどころかどんどん熱くなっている気すらする。
 どうしよう、顔上げないと。そう思っていると、くんとは反対の隣からカメラのシャッター音が聞こえてきた。隣に顔を向けると、どうやらカップルが景色をバックに写真を撮っているようだ。
「俺たちも撮る?」
「へっ」
 突然のくんの誘いに、わたしは思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。写真。くんと、写真。
「う、うん!」
 戸惑いつつもわたしは大きな声で頷いた。くんとツーショットなんて緊張するけれど、こんな機会二度とあるかわからない。
 くんはスマホを取り出すとわたしに隣に来るよう促す。上に掲げたくんのスマホの画面を覗くと、わたしとくんが画面に映っている。
さん、もっとこっち来て」
「も、もっと?」
「寄らないとちゃんと写らない」
 確かにくんの言うとおり近づかないとわたしたち二人に背景まで写らない。高鳴る心臓をおさえながら、ほんの少しだけくんに近づいた。
 肩と肩が、触れ合う。くんの顔がすぐそこにある。彼の長いまつげがはっきりと見えるほどに。あまりの近さに、心臓が爆発しそうなぐらい大きな音で鼓動を打っている。
「撮るよ」
「うん」
 シャッターが切られ、くんのスマホにわたしたち二人の写真がおさめられた。くんがスマホを確認するのをわたしはハラハラしながら待つ。
「だ、大丈夫かな、わたし目つぶったりしてない? 変じゃない?」
「大丈夫」
 くんは言いながらわたしに写真を見せてくれる。そこに写ったわたしは、頬を赤らめながらも心配したほどおかしな顔はしていない。とりあえずほっと胸を撫で下ろした。
「写真、そっち送るね」
 くんの言葉のすぐ後にチャットで彼から写真が送られてきた。自分のスマホの画面で見てもくんの姿はやはりかっこよくて、画面を見るだけで鼓動がおさえきれない。
 そんなくんの隣に写るわたし。遠くまで見渡せる景色をバックに、わたしとくんだけが写っている。この写真、一生大事にしよう。スマホを握りしめながら心に決めた。
「……可愛い」
「えっ」
 写真にロックをかけようとスマホをいじっていると、上からそんな言葉が降ってきた。今のは間違いなくくんの声。かわ、いい? え、可愛い!?
「……ごめん」
「えっ、あ、いや……」
 見上げたくんは大きな手で自身の口元を覆いわたしから視線を外している。隙間から見える頬は、ほんの少し赤らんでいるように見えた。
 どうしよう。くんのこの反応、可愛いって、本当にわたしのことを言ってくれたのかな。どうしよう、どうしよう。頭がパンクしてしまいそう。
「……いや」
「……?」
 くんは口元から手を外すと、真っ直ぐわたしを見据えた。真剣な目に、わたしは思わずぴんと背筋を伸ばす。
「……変じゃない。ちゃんと可愛く撮れてる」
「え……っ」
 くんの言葉に、一気に頬に熱が集まった。可愛い、わたしが。くんが、わたしを、可愛いと言ってくれた。
「あ、の……ありがとう……」
 なにをどう言ったらいいかわからないぐらいに、胸の奥がぎゅっと潰れるぐらいに、心臓が大きく鼓動を打っている。くんがわたしのことを可愛いと言ってくれる。それがこんなにも嬉しいことだなんて。幸せでどうにかなってしまいそう。
「あ、あのね……くんもかっこいいよ!」
 くんがわたしにかっこいいと言われて喜ぶかはわからない。けれど、ちゃんと伝えたいと思った。伝えなくてはと思った。
「……ありがと」
 くんは目を丸くした後、頬をゆるめてはにかんだ。その顔があんまり綺麗だから、わたしの心臓はまた高鳴ってしまう。
「また、写真撮る? 今度は違うところで」
 くんは器用にスマホをくるりと回しながらわたしに問いかける。そんなもの、答えはひとつに決まっている。
「うん!」
 どうしよう、今日だけで宝物が数え切れないぐらいに増えてしまいそう。