きみの見る世界



 ルブランの二階、くんの部屋。いつもの場所でわたしとくんは今日もコーヒーを飲みながらのんびりとしたおしゃべりタイムを楽しんでいる。
「コーヒーおいしいよ。いつもありがとう」
「どういたしまして」
 くんが淹れてくれるコーヒーはおいしい。初めてくんのコーヒーを飲んだのが約四ヶ月前。あれからちょくちょくルブランにやってきてはコーヒーをご馳走になっている。
 四ヶ月前、最初にわたしがルブランを訪れたとき。あの頃わたしたちはまだただのクラスメイトだった。あのときから少しずつ話すようになって、一緒に遊びに行ったりもして、つい先日恋人同士になった。くんがわたしの恋人だなんて、今でもまだ信じられない。とても不思議で、じっと隣に座るくんを見つめてしまう。
「あ……っ」
 コーヒーを飲むくんの横顔に視線を向けていたら、くんと目が合った。ふっと微笑まれて、わたしの頬は熱くなる。
「あ、その……」
「ん?」
 優しさの中に妖艶さが見えるくんの微笑みを見て、心臓が痛いぐらいに跳ねてしまう。なんだか無性に恥ずかしくなり、わたしは慌てて無難な話題を探した。
「えっと……、くんの眼鏡って分厚いね。目……結構悪い?」
 ぱっと目に付いたくんの眼鏡へと話題を変える。以前からくんの大きな眼鏡は気になっていたのだ。
「いや、これ伊達なんだ。目は悪くない」
「え、そうだったの?」
「うん。かけてみる?」
 くんは眼鏡を外し、「どう?」と言わんばかりに差し出してくる。くんがいつもかけている眼鏡を自分がかけるというのは少し緊張するけれど、それ以外に断る理由はない。わたしは「じゃあ、試しに」と言ってくんから眼鏡を受け取りかけてみる。
「どうかな……?」
 自分で鏡を見る前に、くんへと顔を向けた。くんの眼鏡は太めの黒縁に大きなレンズだから、かなり人を選ぶデザインだ。かけた後になんだけれど、自分が似合っていると思えず少し恥ずかしい。
「……」
「……くん?」
 くんはじっとわたしを見つめたまま、口を開こうとしない。どうしよう。絶句するほど似合ってないのかな。
くん、その……」
「キスしていい?」
「へっ!?」
 突然のくんの問いかけに、わたしはつい大声を上げてしまった。いやだって、なんでいきなり!?
「なんか……ぐっときた」
「ぐっと……?」
「そう。していい?」
 ずいとくんが顔を寄せてくる。眼鏡をかけていない素顔のくんはそれはもう綺麗な顔で、わたしは思わず声をあげてしまいそうになるのを必死にこらえた。
「あ、えっと……だ、大丈夫です」
 混乱しながらも、くんの問いにかろうじて答える。まだキスは緊張するけれど、嫌だと思ったことはない。むしろ心の奥がときめいて、ドキドキして、……嬉しいなと、そう思う。
 わたしの答えを聞いて、くんはわたしの頬に右手で触れる。ゆっくりとくんの顔が近づいてきて、わたしは目を閉じた。
 くんの唇と、わたしの唇が、触れる。甘い感触に、わたしの胸は小さく疼く。
「……く、」
 名前を呼ぶ前に、くんに再び唇を塞がれた。先ほどより鋭いキスは、わたしの頭を沸騰させるには十分だった。
 キスをしていた時間はどれぐらいだっただろうか。ほんの短い間だったような気もするけれど、ずいぶん長く唇を合わせていたような気もする。
 唇が離れた直後、くんの綺麗な素顔がまた目に入ってきて、わたしは思わず両手で顔を覆ってしまった。

くん……」
「今度俺の上着着ない?」
「……こういうの好きなの?」
「好きかも」