カンパニュラの花言葉 星の瞬き


 ひゅっと、首筋に冷たい風が吹く。その風に起こされて重い瞼を開けると、隣に寝ていたはずのくんがベッドに座り窓の外を見つめていた。
くん……?」
「ごめん、起こした?」
「ん……どうしたの?」
「星見てた」
 わたしも起き上がりくんに体を寄せた。今日は新月、窓から見える夜空にはたくさんの星が瞬いている。
「綺麗だ」
「うん」
「高三のときはよく星見ながら電話してた」
「懐かしいなあ」
 わたしとくんは高校二年から付き合っている。けれど高三の一年間はくんが地元に帰ってしまったので遠距離だった。そのため高三のときはよく空を見ながら電話で会話したものだ。
「まだ夜は冷えるな」
 くんは掛け布団でわたしと自分をくるんだ。くんの体温と布団の温もりがわたしを包んでいく。
くん、眠れなかったの?」
「なんだか目が冴えて。今日はいろいろあったから興奮してるのかもしれない」
 今日は……もう日付が変わってしまったので正確には昨日は、わたしとくんが付き合い始めて二年目の記念日だった。大学帰りにふたりでデートをして、小さなホールケーキを買ってくんの部屋まで来た。いろいろ、というほどトラブルがあったわけではないけれど、くんも今日という日を楽しんでくれたのなら嬉しいと思う。
「付き合わせちゃったかなって思ってたんだけど」
「そんなことない。こういうのもいいなって思ってる」
 くんはあまり記念日や節目にはこだわるタイプではない。そういうところは何事にもとらわれないくんらしいと思う。だからこそ、「せっかくだから付き合い始めた記念の日を一緒に過ごしたい」というわたしの我が儘に付き合わせて申し訳ない気持ちも強かった。
が楽しそうにしてるの見ると、俺も嬉しいよ」
「だって嬉しかったから。くんともう二年も一緒にいるんだなって思ったら……本当、よかったなって。奇跡みたい」
 くんと付き合い始めてからの二年は、本当に様々なことがあった。くんが少年院に入ってしまったり、遠距離になったり……。どんなときでもくんのことを好きだという気持ちは揺らがなかったけれど、それでも不安な夜は数え切れないほどあった。今こうして穏やかな気持ちで隣にいられることが奇跡だと思えるほどに。
「奇跡なんかじゃない。俺との気持ちの結果だ」
 くんはわたしの肩を抱き寄せ、額にキスをひとつ落とした。額に感じる甘くて熱い感触は、わたしの心の奥を疼かせた。
「こうやって俺たちが今隣にいるのは、お互いを好きだって気持ちを忘れないで努力した結果だ。俺はそう思ってる」
 くんの言葉が、わたしの胸の内に沁みていく。うん、そう。きっとそう。わたしとくんがこうやって隣にいられるのは偶然が織りなした奇跡ではなく、わたしたちふたりが導き出した必然だ。そう思っている方が、ずっと幸せだ。
「そういうこと考えたり、の付き合い始めてからのこと思い出したりしてたらなんだか眠れなくなって」
「ふふ、そうなの?」
「うん。あと寝てる可愛いなって思ったりとか」
 くんのその言葉に、わたしはかあっと自分の頬が赤くなるのを感じて俯いてしまう。
「照れてる」
「照れるよ……」
「まだ照れる? もう似たようなこと何度も言ってる」
「そうだけどやっぱり照れちゃう……」
 くんに可愛いとか好きだとか言われると、今でも胸の奥がくすぐったくなって、顔に熱が集まってしまう。二年たっても変わらない。しかも自分の寝顔なんて見たことがない。それを可愛いと言われるのはどうにもむず痒くて、恥ずかしい。
、顔上げて」
「ちょ、ちょっと待って。五秒!」
 五秒、五秒待ってくれればこの赤くなった頬をおさまるはず。わたしは頬をぎゅっと押さえながら瞬きをする。
「あ、流れ星」
「えっ!」
 くんの言葉に、五秒待つ前にわたしは顔を上げた。東京の空ではあまり見ることができない流れ星をわたしも見たい、そう思った瞬間。くんの唇が、わたしの唇に触れた。
「れ、くん!」
「引っかかった」
「うそつき!」
「嘘じゃない。本当にあった」
 ほら、あのあたりとくんは指さすけれど、もうその手には引っかからない。じっとくんから目を逸らさず見つめていると、くんはふっと微笑んだ。
「じゃあ素直に言う」
「……?」
「キスしたい。目、閉じて」
 その言葉に、わたしの頬はまた熱くなる。
 くんって、こういう人だ。二年前から変わらない。優しいけれどちょっと意地悪で、とびきり甘い言葉を吐く人だ。
 そんなくんが、わたしは大好き。
「……うん」
 わたしはそっと目を閉じた。優しいキスの感触と共に、瞼の裏に星空が映った気がした。