どれだけ言葉を並べても
「ねえモルガナちゃん、聞いて聞いて。くんがね」
ソファに寝転がりながら、クッションの上でくつろぐモルガナちゃんに語りかける。モルガナちゃんは大きく口を開けてあくびをしているけれど、ちゃんと耳はこちらを向いている。
「わたしね、くんのこと大好き。くんね、本当に優しくって。わたしおしゃべりだから、いっつもひとりで喋っちゃうんだけど、くん絶対最後まで聞いてくれるの。わたしね、くんのそういうところ本当に大好き」
くんがいないとき、ときどきこうやってくんのことをモルガナちゃんに一方的にしゃべっている。くんのこと……というより、くんの好きなところの話。要するに惚気タイム。
「わたしの話聞いてくれるときのくんね、優しいのもそうなんだけど、本当にかっこいいの。ちょっと笑っててね、ああいうくんの顔見ると、幸せってこういうことなんだな~って思うの」
話す内容は別に大したことじゃない。ただくんのこういうところが好き、こういうところがかっこいい、この間こんなことがあったの幸せ。おそらく他人が聞いたらきっとどうでもいいような、そんな内容だ。
「くんの淹れるコーヒーね、本当においしくって。苦いのは苦手だけど、くんは砂糖と牛乳たくさん入れてくれたり、クリーム入れてくれたりして、甘いの作ってくれるの。でもね、外で甘いカフェオレとか飲んでもやっぱりくんが淹れてくれたのがわたしは一番好き!」
モルガナちゃんの前足をぎゅっと握る。肉球ををもふもふ、もふもふ。口を動かすだけでは思いの丈を発散することができないから、いつもこうやってモルガナちゃんの手を握ってしまう。本当はモルガナちゃんを抱きしめて撫でたいけれどそれは嫌がるので仕方ない。とはいえ、手を握ってこんな惚気話を聞くだけでもモルガナちゃんにとっては迷惑千万だろう。……たぶん。わたしはくんと違ってモルガナちゃんの言葉がわからないから想像でしかないけれど、モルガナちゃんの表情がそう語っている。その代わり、話を聞いてくれた後にモルガナちゃんにはお寿司をごちそうするのが決まりになっている。そのときのモルガナちゃんはご満悦な表情だから、きっとそれで手を打ってくれているのだろう。
「もうくんと何年も付き合ってきてるのに、今もかっこいいなあ、大好きだなあって思うの。変かなあ」
くんとは高校のときから付き合っていて今はこうして一緒に暮らしていて、恋人同士としてもそれなりに長い時間を過ごしてきている。それでもたまにくんのことが好きで好きでたまらなくなってしまう。だからこうやってモルガナちゃん相手にお喋りして発散しているのだけれど。
「くんの好きなところ、いっぱいあってね。優しいところもそうだし、無口だけど大事なことはちゃんと言ってくれるし、優しいけどちょっと強引なところもあって、でもそういうところ引っ張ってくれる感じがして好きだなあって思うの。見た目もかっこいいし、男の人に言うのも変かもしれないけどすっごく綺麗でね」
自分がおしゃべりな自覚はあるけれど、驚くぐらいにぺらぺらとくんの好きなところが出てくる。考えるより先に口が動いてしまうぐらいだ。
くんが好き。大好き。こうやって思いの丈を口にしないとしてたまらないぐらいに。
「手の形もね、指も長くてすごく綺麗なんだけどわたしより全然大きくてちょっとゴツゴツしてて、手繋ぐと男の人なんだなあってドキドキするし、あとね」
きゅうっとモルガナちゃんの前足を握りながら話していると、ドアの向こうからカタンと物音がした。
……物音?
「!!?!」
慌ててドアの方に目をやると、そこには出かけたはずのくんの姿が。
「えっ、えっ!? なんで!?」
「忘れ物したから取りに帰ってきた」
「いつからいたの!?」
「モルガナちゃん聞いて、のあたりから」
「それ最初からじゃない!?」
う、うわあ。つまり最初からわたしの話全部聞かれていたってこと。どうしよう、穴があったら入りたい!
「うう……」
両手で顔をおさえてうなだれていると足音とともに隣にくんが座った気配がした。でも恥ずかしくって顔が見られない。
「」
くんはわたしの手と顔の間に自分の大きな手を差し込んで、私の頬を包み込む。手のひらを動かしてくいと私の顔を自分の方へと向けさせた。くんの視線と、私の視線が交差する。
うう、やっぱりかっこいい。もう何度も見ているのに、かっこよくてどうにかなってしまいそう。
「続きは?」
「えっ?」
くんの顔に見とれていると、思ってもいない言葉が降ってきた。
続きって、え、もしかして惚気の続き!?
「続き、あるんだろ?」
「え、ま、待って?」
「待たない。気になる」
「え、ええ!? も、モルガナちゃん……!」
思わず助けを求めるけれど、モルガナちゃんはくんに向かって一鳴きするとひょいと窓から出て行ってしまう。
「モルガナちゃん、なんて言ったの……?」
「さあ?」
「さあって……!」
「それより俺はの言葉の続きの方が気になる」
くんは薄い笑みを携えて距離をまた一歩詰める。わたしの大好きなくんの瞳。その鋭い視線がわたしを捉えて離さない。
「俺のどこが好きか、教えて欲しい」
囁くような声がわたしの中に響いていく。うう、もう、そういところも、全部好き。