愛されてるなあ
午前九時、枕元でけたたましく鳴るアラームを叩くように止めたは、目を半分ほどしか開けないまま体を起こした。
「ふあ……」
足下ではモルガナが大きなあくびをしている。おはようと言えばモルガナも眠そうな声で「ああ」と返してきた。
「まだ寝てるな」
モルガナはベッドの上をてくてくと歩き、の隣で丸まったまま寝ているをちょんちょんとつついた。あれほど大きな目覚ましの音だったというのに、は起きる気配すら見せない。
「あんなに大きな音でも起きないなんてすげえなあ」
「夜更かししてたみたいだからな」
ふあ、と大きなあくびをしながら昨夜のことを思い出す。昨夜は課題が終わらないと言ってずいぶん遅くまで居間でパソコンとにらめっこをしていた。根詰めすぎるなよと言ってがにコーヒーを出したのが午前0時、それから何時間後に寝たのかは知らない。
「でも今日バイトなんだろ? 起きないとまずいだろ」
「ああ」
今日は土曜日だがは昼からアルバイトが入っていたはず。その前に昨日の課題を大学に持って行かなくてはいけないはずだし、あまり遅くまで寝かせているわけにもいかない。
「おーい、起きろー」
モルガナが前足で肩をぽんぽんと叩くけれどはびくともしない。今度はが名前を呼びながらの肩を揺する。そこまでしてようやくは瞼を半分ほど開ける。
「んん……」
「ほら、そろそろ起きないと。バイトの前に大学行くんだろ?」
「くん……?」
はまだ意識がはっきりしない様子での方へと腕を伸ばす。自分を呼んでいるのだと感じたはその手を優しく握って「起きて」と声をかけるけれど、からは予想外の言葉が返ってくる。
「好き……」
はそう言うと、再び瞼を閉じて眠りに落ちてしまう。の手を握ったままで。
「お前、愛されてるなあ」
その様子を見ていたモルガナが感心しつつも半分呆れたような声を出す。
「そう?」
「おいおい、自覚ないのか? 罰が当たるぞ」
は普段から好きという感情を隠さない。モルガナが傍で見ていて少し恥ずかしくなるぐらいだ。がを見る瞳はいつだってキラキラと輝いてる。百人いればその全員がふたりを一瞬見ただけでの恋心に気づくだろう。それほど好かれ、さらには寝言でまで好きだと言われてそのクールな返しはいかがなものか。モルガナがため息をつくと、はの髪を撫でながら言葉を返す。
「だって、俺の方がベタ惚れだと思う」
さも当然だというの口調に、モルガナは青い目をまん丸くした。
の想いを疑うような声色ではない。ただ単純に、自分の想いの強さを疑っていない。その証拠にの髪を梳くの手つきは優しく、の寝顔を見つめる瞳は甘い。よくよく考えてみなくても、がほかの人間にこんな表情を見せたところを、モルガナは見たことがなかった。
「そうか」
「うん、そう」
「そうかあ~……」
なんとなく気恥ずかしくなったモルガナは、しっぽをぱたぱたと振って適当な言葉を返す。そうしている内にがようやく目を覚まし始めた。
「んん……あれ」
「やっと起きた? おはよう」
「くんおはよう……」
眠そうに目をこするに、モルガナは「愛されてるなあ」と小さく鳴いた。モルガナの言葉がわからないは朝の挨拶と思ったのか「うん、おはよう」と答える。
「くん、なんで笑ってるの?」
「いい朝だなって」
「……わたしはもうちょっと寝たいけど」
「大学寄ってからバイト行くんだろ? もう起きないと間に合わない」
「はーい」
ぐーっと伸びをするを見てが笑う。そんなふたりを見てモルガナはいい朝だなあと呟いた。