ルブラン常連を助ける話/2
八月の下旬辺りから、惣治郎の勧めでにコーヒーを淹れるのはの役目になっていた。修学旅行やモルガナの出奔などがありしばらくは店に顔を出せなかっただが、九月後半になった今はこうしてまた店に立っている。
「くん、カレーは作らないの?」
の問いかけに、は「そっちは教えてもらったばっかりだから」と答える。コーヒーはどうにか惣治郎から及第点をもらえただが、カレーの腕はまだまだだ。
「そっか。いつかくんのカレー食べられるのかな」
「期待しないで待ってて」
「ふふ、了解」
は優しい微笑みをに向ける。
は表情がよく変わる。しかし、その表情はどれも上品だ。決して気取ったわけではない自然な表情は見ていて楽しく、どこか安心感を覚える。
ただ、最近には少し気がかりな点があった。の表情がどこか暗いのだ。先ほども微笑んではいたものの、その笑みに陰りが見える。
「あ、怪盗団……」
は店内のテレビに視線を向ける。夕方のワイドショー内で怪盗団の特集をやっているようだ。
先月のメジエド騒動から、怪盗団の知名度は一気に上がった。人気に火がつき、街中でも怪盗団の噂を聞かない日はない。テレビで怪盗団のことを取り上げている様子もよく見る。をはじめとする怪盗団本人からすると、あまりの加熱ぶりに恐怖すら抱く部分もあるほどだ。
「本当に、いるのかな」
の声はほんの小さなもので、近くにいるでも微かに聞こえたほどだった。しかし、は確かにそう言った。まるで、怪盗団に助けを求めるような声で。
「……何かあった?」
他の客に聞こえないよう、声を抑えてはに声をかける。は目を泳がせた後、眉を下げた笑みを作った。
「ちょっと……勉強がうまくいかなくて」
「今夏休みじゃ?」
以前から聞いた彼女の通う大学の夏休みは九月の下旬まで、今はまだ休み期間のはずだ。長期休暇の今、悩むほど勉強に行き詰まっているとは考えられない。
は図星だったのか、から目をそらし下を向く。
「前期の復習とか、後期に取りたい講義の計画とか、いろいろあるの」
は再びコーヒーカップを口元に持って行くが、中身はほとんど減っていない。
「……そう」
の様子は明らかにはぐらかしているものだが、今は店内に他の客も惣治郎もいる。は深く問いただせず、そのままが帰るのを見送った。
「なあ、今日のあの子の様子おかしかったな」
その日の夜、寝る支度をしているとモルガナが机の上で口を開く。
「ああ、少し前から様子がおかしい」
「気になるな……しかしルブランの中でしつこく聞くわけにもいかないしな」
モルガナはしっぽをピンと立たせ、困ったようなうなり声を出す。はモルガナをなだめるように額を撫でるが、実際も困っているのだ。
がなにかしらの悩みを抱えているのは確実だ。それも、怪盗団に助けを求めるほどの悩みだ。なんとかして解決したいが、本人から聞き出さねばそれも叶わない。
「怪チャンにもないのか?」
「ああ」
怪チャンの掲示板も確認してみたが、らしき書き込みは見当たらない。いや、気になる書き込みはいくつかあるが、の悩みの情報が少なすぎて断定できないのだ。
「恋する少年は大変だな」
からかうようなモルガナの言葉に、は顔をしかめモルガナの小さな額にデコピンをする。「なにすんだ!」とモルガナが叫ぶが、は無視して掲示板の書き込みをさらに探っていく。
「別に助けたい理由はそれだけじゃない」
のことが好きだから彼女を助けたいと思う感情は否定しない。しかし、たとえ彼女が見ず知らずの人間であっても助けたいと思っただろう。
「知り合いじゃないから助けないなんて、そんなのは怪盗団の名折れだ」
弱きを助け強きを挫き、人々に勇気を与えんとする怪盗団。助けたい相手は自分たちの親しい人間だけで他はどうでもいい、そんなことを言うメンバーは怪盗団にはいない。
「……そうだったな。機を見て探ってみようぜ」
「ああ」
モルガナはの横に座り、一緒になって怪チャンを見つめる。夜遅くまで確認してみたが、結局有力な情報は得られなかった。
あれから数日後、はモルガナを鞄に入れ渋谷の町を歩いていた。岩井の店で異世界用の武器を調達し、書店で気になる本を買う。後は四茶で食材の購入をすれば今日の買い物は完了だ。荷物を抱えながらセントラル街から駅前広場を目指せば、見知った顔がそこに見えた。
「さ……」
は声をかけようとしたが、の様子がおかしいことに気づく。の腕を掴む年輩の男性の姿が見えたのだ。どう見てもはその行為を受け入れているようには見えない。
「おい、」
「ああ」
は荷物を揺らしながらに駆け寄る。男性に掴まれている方とは反対のの腕をつかみ、自分の方へと引き寄せた。
「くん……!?」
は驚いた表情もつかの間、怯んだ年輩の男性の腕を振り払い、のほうへと身を寄せる。
「あ、あの! さっき言った約束してた……バイト先の友達です!」
の言葉には少々戸惑ったが、すぐにの意図を理解し話を合わせる。おそらくはこの男性の誘いかなにかを「先約がある」と断ろうとしていたのだろう。
「友達……?」
「そう。向こうでみんなも待ってる」
「うん。あ、あの、そういうことなので!」
はの体に身を隠しながら男性へと強い口調で告げる。しかし相手はその答えに満足がいかないのか、大きな舌打ちで反抗を見せる。
「……まあいい。また連絡するぞ」
は男のその言葉に肩を震わせた。はかばうようにと男の間に体を入れる。男が渋谷の町に消えていくのを確認し、の方を向いた。
「くん……ありがとう」
は大きく息を吐くと、笑顔で顔を上げる。しかし、その笑顔が無理な笑いであることは明白だ。
「もう、大丈夫だから」
「今のは?」
「大学の教授。帰りに偶然会って……」
「大学の先生ってあんなふうに腕引っ張るもの?」
の言葉には黙ってしまう。俯くに、は言葉を重ねた。
「今日はルブラン早く閉店するって言ってた」
今朝、惣治郎は町内会の用事でルブランを昼過ぎには閉める旨を話していた。もうこの時間ならクローズさせているだろう。
「だから誰にも聞かれずに話聞ける」
は唇を動かしなにかを言おうとするが、結局なにも言わずに首を縦に振るだけで頷いた。
「くんって結構強引だね」
ルブランの真ん中のテーブル席に座ったは、苦い笑みを浮かべながらそう言った。
「そう?」
は頷きながらもコーヒーを淹れる手を休めない。コロンビア産の豆を使い丁寧に淹れたコーヒーをに差し出す。「ありがと」とは言うものの、なかなか手をつけようとしない。
そんなを、はただ待った。彼女が話せるようになるまで、自分の分のコーヒーを飲んで。
「……さっき渋谷で会った……大学の先生がちょっと変っていうか」
どのぐらい時間がたっただろうか。はようやく口を開いた。
「去年から講義取ってる先生なんだけどね。今年に入ってから連絡先交換したの。講義のこととか聞きたいことたくさんあったから。でも……」
はコーヒーの入ったカップをぎゅっと握りしめ、言葉を続ける。
「夏休み入る前ぐらいからかな。質問しに行くと妙に距離が近いなって思ったり、視線が変だなって思ったり……。気のせいかと思ってたけど、夏休み入ってから変なチャットが来るようになって……」
「変な?」
「……二人きりで会いたいとか、そういうの」
は唇を噛みながら、絞り出すような声を出す。二人きり、というのは当然講義や課題のことを話したいのではないだろう。
「……ずっと誤魔化してたんだけど、今日偶然会っちゃって……部屋に来い、って」
その言葉に、も唇を噛む。は該当の場面をほんの一瞬目撃しただけだが、あの様子は尋常ではなかった。があそこに居合わせなかったらどうなっていたか、想像に難くない。
「さん」
はそう呼びかけたが、続く言葉が出てこない。膝の上で拳を握り、下を向く。
「……ごめんね、こんなこと話して……」
「いや……」
「他の先生にも相談してみるから。くん、気にしないで」
はコーヒーを飲むと、小さく息を吐く。ほんの少しだが表情は軽くなったように見える。
「話聞いてくれてありがとう。また、ルブランに来るね」
の表情は明るくはなったが、いつものほどではない。話をするだけで多少心は軽くなるだろうが、原因はなにも解決していないのだから。
「教授の名前は?」
の問いかけには首を傾げる。不思議そうに見つめられ、は言葉を付け加える。
「ちょっと気になったから。調べるだけ」
「でも……」
は何度か瞬きし、首を横に振った。
「本当に、気にしないで。他に頼りになる先生もいるから、きっと大丈夫」
はそう言って、ルブランを出て行った。
「なあ、」
の姿が見えなくなったところで、鞄の中のモルガナが顔を出す。
「名前、教えてくれなかったな」
「ああ……」
は足を組み、先ほどまでが座っていた席を見つめた。名前がわからなければ改心はさせられない。のあの様子では、すんなり教えてくれるとは思えない。
「名前か……」
「聞き出すしかねえな……それにもう少し詳細が知りたい」
「……ああ。そうだな」
確かに名前以外にももう少し踏み込んだ情報がほしい。を一刻でも早く助けたい気持ちは心からの感情だが、怪盗団の全会一致ルールを破わけにはいかない。
「三島にも大学生のそういう書き込みがないか聞いてみよう」
「任せたぜ」
は三島にチャットを送り、怪盗お願いチャンネルを開いた。しかし、らしき書き込みは見当たらなかった。
それからは毎日ルブランの手伝いをすることにした。の些細なサインも見逃さないように。しかし、は一度もルブランに顔を出さなかった。
から話を聞いた一週間後、が四軒茶屋のホームに下りると、備え付けのベンチにが座っているのを発見した。しかし、どこか様子がおかしい。いつも姿勢のいいが背中を丸め、じっと動かない。
「さん」
は躊躇うことなくに声をかけた。彼女ははっと驚いたように顔を上げる。
「くん……」
「どうした?」
「あ……いや、別に……」
は髪を耳にかけながら言葉を淀ませる。その様子を見ては確信する。例の件でなにか動きがあったのだ。それも、悪い方に、だ。
「……ルブラン、来る?」
「え、でも……」
「コーヒー、飲んでいきなよ」
は視線を泳がせ迷う素振りを見せつつも、最終的にはの誘いに頷いた。
「こんばんは……」
「おや、いらっしゃい」
先日と違い、まだルブランは開店している。惣治郎はいつものようにに挨拶をするが、の方はいつもの元気がないのは明白だ。
「……おい、」
惣治郎はの陰に隠れるようなを見て、の肩を叩いた。
「ちょっと塩切らしてんだ。買いに行って来るから店番しとけ」
惣治郎はそう言うと、たばこケースと携帯灰皿だけをポケットに突っ込んで出て行った。その様子に、は少々安堵した様子を見せる。
「モルガナ」
は鞄の中のモルガナに声をかけた。もしかしたらこの間以上の話をがしてくれるかもしれない。いくら見た目が猫だとは言え、自分以外の人間が話を聞いているのはおそらくも嫌だろう。特にこの件は内容が内容だ。
モルガナはの意図を察したのか、すぐに頷きルブランの外へと駆けて行った。
「座って」
以前と同じテーブル席に座るよう促し、は手早くコーヒーを淹れた。先日と同じ豆で淹れたコーヒーを、にそっと差し出す。
「ありがと」
はカップを持ち、ゆっくりと一口飲み込む。目をつぶり、味をかみしめているようだ。
「……あの先生のことなんだけどね」
少しの沈黙の後、はおもむろに口を開いた。
「いろんな先生に相談したけど、だめだった。みんなあの先生の言いなり。……あの先生に目つけられて、反抗して、大学やめた子もいるんだって」
「え……」
「去年同じ学科の子が学校やめたの。中退する子って何人かいるから気にしてなかったけど、自分の言うとおりにしないと単位落とすぞって言って、あの人がやめさせたんだって」
は淡々とした口調だが、声が震えている。はぎり、と歯を強く噛んだ。
「……さんはどうするの?」
「……どうしよう。大学やめたら親に迷惑かかっちゃうしなあ……」
「単位落ちたらまずい?」
「必修だからね。取らないと卒業できないの。ずっとあの先生が担当だから、来年取ろうとしても同じこと」
は俯いたまま、顔を上げない。前髪を直すふりをして涙を拭ったのを、は見逃さなかった。
「……やっぱり名前、教えてほしい」
「え……」
「俺の方でもどうにかできないか調べてみたい」
「でも……」
はなかなか口を開こうとしない。が、の視線に根負けしたのかついに教授の名前をに告げた。
「あの……変なことしちゃだめだからね?」
「わかってる」
はその名前を忘れないよう、そっとスマホにメモをした。これで改心に必要な材料は揃った。後は仲間と相談してメメントスに向かうだけだ。
「この間から、ごめんね。変な話ばっかりして」
「変な話じゃない」
「……ん。誰にも話せなくて……親はもちろん、友達にも。くんが聞いてくれて、よかった」
は顔を上げ、今にも泣き出しそうな笑顔をに向ける。無理な笑顔に、の心は強く痛む。同時に怒りの炎が燃え上がる。
「くん、ありがとう」
はそう言うと、ルブランを去っていく。
その日の夜、はモルガナに教授の名前を告げる。モルガナは改心に乗り気だ。三島には怪チャンの書き込みの依頼、怪盗団にはメメントスの召集のチャットを送った。
「がんばろうな、」
「ああ」
ははやる気持ちを抑え、その日は早々に眠りについた。明日、失敗するわけにはいかない。
次の日、いつも通りルブラン二階のアジトに集まったメンバーにの件を話した。もちろんの名前は伏せつつ、重要な場所だけをかいつまむ。
「学校の先生が脅してるってことでしょ? そんなの絶対許せない!」
語気を強めたのは杏だった。おそらく半年前までの自分と似たような状況に思うところがあるのだろう。他のメンバーも異論を唱える者はおらず、怪盗団は早速メメントスへ向かうことになった。
全会一致さえ得られればあとはもういつもの要領だ。今まで何度もこなしてきたように、メメントスにいるシャドウを見つけ倒すだけ。
「間違いない。この階にいるぜ!」
深い階層でモナが該当のシャドウの匂いを感じたようだ。クイーンは「了解!」と叫び勢いよくアクセルを踏んだ。
教授のシャドウは、メメントスの隅に佇んでいた。うわ言のようになにかをぶつぶつ呟いている。
「みんな、俺の肩書きばかり……だから、俺は……!!」
「何を言おうと、お前が人を食い物にしてるのは変わらない」
ジョーカーの短剣が、シャドウを貫いた。シャドウが消えた先にはらりと落ちたのは彼が著者の一冊の本だった。これで改心は叶ったはずだ。
「よかったな、ジョーカー」
「ああ」
ジョーカーとモナは視線を合わせ、ほっと肩の力を抜いた。
「ジョーカー、いやに気合い入ってたな」
スカルに肩を叩かれ、ジョーカーは目を丸くする。いつも通りを心がけたつもりだが、漏れ出てしまっていただろうか。
「被害者の女子大生とはジョーカーの知り合いか?」
「秘密」
フォックスの問いかけに、はそう笑って見せた。ぼかした答えに反応したのはスカルだ。
「えっ、おい待て! それってもしかして……」
「情けねえぞスカル?」
「うっせえぞモナ!」
モナとスカルの口論に女性陣が「もう」と呆れ声を出す。怪盗団のメンバーのいつものやりとりを見て、ジョーカーも心を綻ばせた。
「結果は直接聞くしかないか……」
怪チャンに書かれた依頼であれば依頼者本人の報告が書き込まれるが、今回はそうではない。がルブランに来て話してくれるのを待つしかないだろう。
「ジョーカー、これで一安心だな」
「そうだな……そうだといい」
今まで改心に失敗したことはない。これで安心ではあるだろうが、例外の可能性もなくはない。安堵した気持ちを引き締めつつ、ジョーカーたちはメメントスの先へ進んだ。
教授の改心から二日後。はまだルブランに来ていない。
との接点はルブランだけだ。連絡先も知らないので、はがルブランに来ない限り改心の結果を知ることはできない。
閉店後のルブランで渋谷の書店で買った本を読んでいるが、気もそぞろで中身が頭に入ってこない。は小さくため息をつきつつ本を置いた。眼鏡を取り目頭を押さえていると、ドアを叩く音が聞こえてきた。
「さん」
そこには背筋をぴんと立たせたが立っている。はすぐにルブランの扉を開いた。
「ごめん、急に来ちゃって……あの、どうしてもくんと二人きりで話したくて」
話とはおそらく改心させた教授のことだろう。「二人きり」という言葉を聞いたせいか、モルガナはが言う前に扉から出て行った。
「コーヒー淹れるよ」
「あ、いいよ。本当に話だけで」
「いいから」
渋るに無理を通し、はコーヒーを二杯淹れた。先日と同じテーブル席に座り、はゆっくりと話し出す。
「大学、始まったんだけど……あの教授、辞めるみたい」
やはり、教授の改心は無事成功したようだ。はほっと息を吐き、に「よかった」と告げた。
「もちろんよかったんだけど……今まで学生たちにセクハラしたり迫ったりしてたって、そう言って辞めたみたい。大学はその話題ばっかり。まるで……」
「まるで?」
「改心みたい、って」
はじっとを見つめた。その目は疑いではない、確信を宿している。
「……わたし、先生のことくんにしか話してないの」
「…………」
「他に被害に遭った子もいるかもしれないけど……。でも、あんまりタイミングが良くて」
は黙って、の言葉の続きを待つ。
「くんが……怪盗団?」
は語尾を上げつつも、明らかに確信を持った声だ。
こういった疑念を持たれると考えなかったわけではない。しかし、一刻を争う事柄であったし、なにより放ってはおけなかった。
どう答えるべきか迷っていると、がテーブルの上に身を乗り出してくる。
「絶対ほかの人に言ったりしないよ。くん、ありがとう」
はそう言うと、穏やかな笑みを浮かべる。しばらくずっと見ていなかったの柔和な表情に、の心も綻んだ。
「くんは優しいね。こうやっていろんな人を助けてるんでしょう?」
「優しいかどうかは……俺がやりたいことをやってるだけ」
は前髪をいじりながら、小さな声で答える。
今までもずっとそうだ。目の前で起きる理不尽が許せない。理不尽に傷つく人間を救いたい。その気持ちだけで、この半年間やってきた。
「でもやっぱり優しいよ。知り合いのわたしだけじゃなく、知らない誰かのことも助けてるんだから」
はコーヒーを一口飲むと、「おいしい」と言って笑う。無邪気な微笑みに、は唇を尖らせた。
「さんが優しいって言うなら否定しないけど、俺はさんのことただの知り合いとは思ってない」
「え……」
「俺はさんが好きだよ」
はストレートに心の内をに告げる。じっとを見つめれば、は頬を赤く染めた。
「……でもくんは、わたしがただの知り合いでも、知らない誰かのSOSでも、助けてくれたでしょう」
は机の上にあるの手をそっと握った。
「そんなくんが、わたしも好きだよ」
の言葉を聞いて、もの手を握り返す。指先を絡めると、はくすぐったそうに笑った。
「くん、守ってくれてありがとう」
「これからも守る。一生」
プロポーズにも似た言葉を聞いて、は一瞬目を丸くし、花のような笑顔をに見せる。
「ありがとう。よろしくね」
二人きりのルブランの夜は、更けていく。