お疲れさま
「くん~……」
くんとモルガナちゃんと三人で住むマンションに帰ったわたしは、帰宅早々くんにぎゅっと抱きついた。
ここ最近、ファミレスのアルバイトや大学の課題で忙しかった。バイト、課題、バイト、家事、バイト、課題、バイト、バイト……。さすがに疲れてしまって、アルバイトから帰ったわたしはくんに癒しを求めたのだ。
「、お疲れ」
くんの手が、わたしの背中をゆっくりと撫でる。温かな感触が、わたしのしぼんだ心にじんわりと広がっていく。
あったかいなあ。くんの温もりに癒されて何分ぐらいたっただろう。ふと、くんの笑い声が聞こえてきた。
「くっつき虫だ」
「っ!」
くんの言葉に、わたしははっと顔を上げる。う、甘えすぎちゃったかな……。わたしは恥ずかしくなってくんから体を離した。
「なんで離れるの?」
「だって……」
「くっつき虫、可愛いけど」
降ってきた声に、わたしはぽっと顔を赤くする。先ほどとは違う羞恥心で、わたしはもじもじと体をよじらせた。
「ああ、でも、くっついてたらコーヒー淹れられないか」
「コーヒー……」
くんのコーヒー。そそられる響きに、わたしは目を輝かせた。
「飲む?」
「うん!」
「じゃあ、はい」
そう言ってくんはモルガナちゃんを抱き上げると、ひょいとわたしに渡してくる。わたしを温めてくれる役割はモルガナちゃんにバトンタッチ、ということだろう。
「にゃあ~」
「ふふ、ありがとう、モルガナちゃん」
わたしはモルガナちゃんの言葉はわからない、でも、きっと今は「しょうがねえなあ」と言ってくれているのだろう。
モルガナちゃんを膝の上に乗せて、ふわふわの毛を撫でる。柔らかで温かな感触に、わたしの心が解けていく。
「はあ……バイト、忙しかったなあ」
「にゃーう」
「夏休みだからお客さんも多いし、ほかのバイトの子もお休みが多くてね」
「にゃう……」
「でも大学の課題は終わったし! 来週のテスト終わったらわたしも夏休みだよ」
「にゃ!」
「くんも今週で大学終わりって言ってたね。夏休み、どこか行きたいなあ……」
モルガナちゃんをお話をしながら、くんを待つ。キッチンのほうからコーヒーのいいにおいがしてきた。もうすぐできるのかな。わくわくと足を揺らしていると、くんがマグカップを持ってやってきた。
「はい、できたよ」
「ありがとう! わ……」
受け取ったコーヒーには、二つのマシュマロが浮いている。いつもはミルクのたっぷり入ったコーヒーなのに。
「頑張ってたから、今日は特別」
「嬉しい……ありがとう、くん」
コーヒーを息で冷まして、そっと口をつける。苦いコーヒーの中に、溶けたマシュマロの甘みが広がっていく。まるでくんの優しさみたい。
くんとモルガナちゃんの温もりと、優しいコーヒー。疲れた心が癒されていくのを感じて、わたしは頬を緩めた。
「ねえ、くん」
カップを持ちながら、わたしは隣に座るくんを見つめた。
「くんも疲れたら、いっぱいわたしを頼ってね」
今日はずいぶんとくんに甘えてしまった。くんも疲れたときには、たくさんわたしに甘えて欲しい。まっすぐくんを見つめると、くんはふっと笑った。
「もちろん」
くんの笑顔を見て、わたしも笑う。
くん、こうやってずっと支え合っていこうね。