アイスクリームと長い夜





 今日はわたしもくんも夜遅くまでアルバイトで、帰宅し夕飯を食べればもうあっという間に時刻は深夜帯だ。先にお風呂に入ったわたしは、リビングで寝る準備を進めている。
「はあ、さっぱりした」
 そう言いながらくんがお風呂場から出てきた。ほかほかと温かい空気を纏ったくんを見ると自然と笑顔になる。
「気持ちよかった?」
「うん」
 お風呂上がりのくんとハグをすると、ふわりといい香りが広がった。いつもはコーヒーのにおいがするくんから、シャンプーのにおいがする貴重な瞬間だ。
「モルガナは?」
「寝ちゃったみたい」
 モルガナちゃんはリビングの端にあるベッドの上で、すやすやと寝息を立てている。どうやら今日のモルガナちゃんお疲れのようだ。
「ふうん……」
 くんはモルガナちゃんを一瞥すると、口元に不敵な笑みを作る。
くん?」
 くんの笑みの意図がわからずに、わたしは首を傾げる。くん、どうしたのだろう。

 くんはわたしのおでこに自分のそれをくっつけた。くんの薄い唇が、ゆっくりと動く。
「いけないこと、する?」
 その言葉に、わたしの頬が一気に熱くなる。い、いけないことって、え、そういうこと!? た、確かに明日は休みだし、わたしとしては、その。
「あ、あの、くん」
「アイス、食べる?」
「えっ」
 あ、アイス? えっ?
「アイス?」
「うん、アイス」
「あ、アイス……」
「夜中のアイス」
 そ、そうか。夜中のアイス。うん、そうか。夜中のアイスって、悪いこと、だよね。
「食べない?」
「た、食べたい……」
「わかった。持ってくる」
「はい……」
 キッチンの冷凍庫を開けるくんを見て、わたしはソファの上で体育座りをした。うう、ひとりで変なこと考えてた自分がなんだか恥ずかしい……。
?」
「…………」
「ほら」
「ひゃっ!?」
 羞恥で顔を膝に埋めていると、突然首筋に冷たい感触が走る。くんがアイスをわたしの首筋にくっつけたようだ。
「び、びっくりした……」
「はは」
 くんは笑いながらわたしの隣に座ると、カップアイスをわたしに手渡す。ひんやりとしたストロベリーアイスは、いつものアイスよりちょっとお高めのものだ。
「まだアイスあったよね?」
「一つじゃ足りない?」
「ち、違うよ! モルガナちゃんの分!」
「はは。ちゃんとあるから」
 くんはそう言うと自分のカップアイスの蓋を開ける。白いフィルムの内蓋を剥がせば、おいしそうな抹茶のアイスが見えてくる。
 わたしも食べよう。そう思ってアイスの蓋を開けたとき、くんがこちらを見て口を開いた。
「食べ終わったら、他のいけないこともする?」
「!!」
 その言葉に、わたしは持っていたスプーンを床に落とした。
くん……」
「ん?」
「意地悪……」
 くん、絶対絶対、最初の「いけないこと」の時点でわかってる。わたしがちょっと変なこと考えたのわかってる。全部わかってて、わたしのことからかってる。
「じゃあしない?」
 わたしを覗き込んでくるくんの顔は、いつものあの「意地悪」な顔だ。少しだけ口角を上げた、意地悪な笑み。くんって本当に意地悪で、ずるい。わたしがこの笑顔に弱いことも、くんは知っている。
「す……」
「す?」
「……する」
 くんって本当にずるい。ここでわたしが頷くことも、くんは全部わかってる。くんはずるくて、意地悪で、わたしはそんなくんが、好きで好きでたまらない。
 妖しい笑みを浮かべたくんの顔が近づいてくる。唇と唇が重なって、甘い空気が流れていく。甘い夜が、更けていく。