秋のかおり



「コーヒー淹れてくる。待ってて」
「うん、ありがとう」
 朝ご飯を食べ終えた後、くんはコーヒーを淹れるためにキッチンへ向かう。これがいつものルーティーンだ。
「モルガナちゃん、コーヒー楽しみだね」
「うにゃ~」
 わたしとくんの家事は分担制だ。今週の食事当番はわたしで掃除当番はくん、来週は入れ替えて……と緩く分けている。その中でも、朝食後のコーヒーの準備だけはくんの役割だ。極稀にわたしが淹れることもあるけれど、ほとんどがくんが淹れている。
「いい匂い」
 キッチンからコーヒーの芳醇な香りが漂ってくる。今日は温かいコーヒーのようだ。
「最近ホットコーヒーだね。少し前はアイスだったけど」
「ニャ」
 夏の間は冷蔵庫にアイスコーヒーが常備されている。わたしはいつもカフェオレだから、くんは濃いめのアイスコーヒーを事前に淹れておいて、そこにミルクを足してくれるのだ。
「寒くなってきたもんね」
「ニャ~」
 モルガナちゃんはわたしの膝の上で丸まった。ふわふわの毛が温かい。
 お休みの日にくんのコーヒーを待ちながら、モルガナちゃんを撫でる。わたしはいつもこの時間に幸せを感じるのだ。
、お待たせ」
 コーヒーを淹れ終えたくんがキッチンから出てくる。わたしは「ありがとう」とそれを受け取って、そっとカップに口をつける。
「あったかい……」
 寒い朝に温かなコーヒーが染み渡る。コクの深いコーヒーに、ミルクの甘みがマッチしている。
「おいしい……」
 くんが淹れるコーヒーは優しい味がする。きっとくんの愛情と優しさがたくさん入っているから。くんのコーヒー、大好き。
「最近はホットコーヒーだね」
「寒くなってきたから」
くんのコーヒーが温かくなるとね、秋だなあって思うよ」
 季節を感じるものはたくさんあるけれど、一番はくんのコーヒーの温度。コーヒーが温かくなれば秋だなあと思うし、冷たくなると夏だなあと思う。くんのコーヒーが、季節を感じる生活の一部になっている。
「俺も」
 くんは自分のカップを手に取った。
「明日に淹れるコーヒーは温かいのにしようって思うことが増えると、秋になったなって思うよ」
 くんの優しい声に、わたしの頬は緩む。コーヒーのカップに顔を寄せて、湯気の温もりを感じた。
くんのコーヒーは風物詩だね」
「確かに。モルガナが恋しくなるのも秋のにおいだ」
「それはいつもだよ」
はね」
 そう言うくせに、くんだって季節問わずいつもモルガナちゃんと一緒にいるじゃない。そう思ったけれど心に留めておくことにした。
 もう一度温かいコーヒーに口をつける。くんのコーヒーの温度で、季節の巡りを感じる。日々の小さな幸せだ。