同じ温度で
「モルガナちゃん、ただいま!」
とある休日。くんと二人でのデートを終えて、わたしたちはモルガナちゃんの待つ家に帰ってきた。
「ふにゃ~」
てくてくとこちらへ歩いてくるモルガナちゃん。迎えようとわたしは両手を広げた。しかし、モルガナちゃんはあとちょっとのところで突然毛を逆立てる。
「シャーッ!」
「えっ?」
先ほどまでご機嫌な様子で出迎えてくれたのに。この一瞬でどうしたのだろう。
「モルガナ、いきなりどうしたんだ?」
「ウニャウ、ニャーッ!」
モルガナちゃんは怒った声色のまま、なにやらくんに訴えかけている。モルガナちゃん、なにがあったのだろう。
くんが訳してくれるのをハラハラしながら待っているわたしの隣で、くんは一人で笑いをこぼした。
「くん……?」
「オマエラ猫の匂いがするって怒ってる」
「猫?」
確かにデートの帰り道、道の傍らにいた地域猫をくんと二人でひとしきり撫でていた。モルガナちゃんが言っているのはその猫の匂いだろう。
「他の猫の匂いがするから怒るって、猫みたいなこと言うんだな」
「フニャーッ!」
今のはモルガナちゃんの言葉がわからないわたしでもわかる。「猫じゃねーし!」と言っているのだ。
「モルガナちゃん……」
「にゃ……」
モルガナちゃんがヤキモチを焼いている。あのモルガナちゃんが。わたしに。
「お風呂入ってくるね!」
わたしは急いでお風呂場へ向かった。モルガナちゃんにそんなことを言われたら、今すぐさっきの猫ちゃんの匂いを落とさなくっちゃ!
「モルガナちゃん!」
とにかく急いで、しかししっかりと体を洗ってシャワーを終えた。お風呂場を出て真っ先にモルガナちゃんへ駆け寄よれば、モルガナちゃんは「ふにゃ!」と満足げな声を出す。
「猫……」
「フニャーッ!」
「ふふ」
いつものやりとりに笑みをこぼしつつ、モルガナちゃんの背を撫でる。ほんの少しだけ、黒い毛がふわふわと宙を舞った。
「んにゃう」
モルガナちゃんはごしごしとわたしの足に体を寄せる。匂いをつけるかのような動作に内心「猫……」と思ったのは、わたしだけの秘密だ。
その日の夜、眠る準備を整えてくんとふたりでベッドに入った。今日のモルガナちゃんの行動に思いを馳せると、自然と笑顔になってしまう。モルガナちゃんがヤキモチなんて嬉しいな。
「、嬉しそう。モルガナのこと?」
「うん」
「これから外の猫撫でるときは、モルガナに気づかれないようにしないとだな」
「ふふ、そうだね」
自分の腕のあたりをすんすんと嗅いでみる。モルガナちゃんの匂い、するのかな。わたしにはわからないや。
「モルガナちゃんの匂い、してると思う?」
モルガナちゃんは猫ではないけれど、嗅覚はわたしたちより鋭いらしい。わたしにはわからない匂いも、モルガナちゃんにはわかるのかな。くんはどうなんだろう。
「いや」
くんは不敵な笑みを浮かべると、わたしの首筋に顔を寄せる。突然のことに、わたしは小さく「ひゃっ」と声をあげた。
「は俺の匂いしかしないよ」
耳元で囁かれた言葉に、わたしの心臓は大きく跳ねる。体中の熱が全部顔に集まっているのではないかというほどに、頬が熱い。
「……のに」
赤くなった頬を隠すために枕に半分顔を埋めて、小さく言葉を絞り出す。
「ん?」
「……くんだって、わたしの匂いしてても、いいのに」
わたしだけくんの匂いがするの、ずるい。ずるい。ずるい。くんって、ずるい。枕をぎゅっと抱きしめて、足をバタバタとベッドに打ち付けた。
「」
くんは優しい声でわたしを呼ぶと、そっとわたしを抱きしめる。
「俺もの匂いしかしないよ」
くんはわたしの頭を自身の首筋に寄せる。お風呂から出たばかりのくんから香るのは、洗濯物とシャンプーの香り、そしてほんの少しのコーヒーの匂い。
「……同じ?」
「そう、同じ」
「……くんって、やっぱりずるい」
わたしはぎゅっとくんを抱きしめ返して、小さく呟いた。
くんはいつだってわたしの欲しい言葉をくれる。くんのそんなところがわたしが大好きで、すごくずるいと思う。
「」
くんは軽く触れるだけのキスをする。甘いキスに、頭がくらくらしてくる。
「もっと同じになろうか」