バニラとチョコレート
「アイス食べたい……」
とある金曜日の夜。なんだか無性にアイスが食べたくなって、そんな言葉がぽろっと声に出た。
「アイス、あったっけ?」
「うーん……どうだっけ」
ちょうど冷蔵庫を開けていたくんがついでに冷凍庫の中を確認してくれた。しかし「やっぱりないや」との答えにわたしはがっくりと肩を落とす。
「アイス……」
ほんの一分前までアイスのあの字も頭の中になかったのに、一度「食べたいと思ったらこびりついて離れない。うう、アイス、アイス……バニラアイス……。
「買いに行こうか」
アイス……と呟きながらテーブルの上にうなだれていると、くんが甘い誘いをもちかけてきた。もちろんわたしはすぐに顔を上げて「行く!」と答える。
「決まりだ」
「やった!」
高揚したわたしは軽やかに立ち上がると、鞄と薄手のカーディガンをクローゼットから取り出した。さっと髪を手櫛で整えている間に、くんも準備を終えたようだ。
「モルガナも行く?」
「にゃう!」
モルガナちゃんは返事をする前にすでにくんのいつもの鞄に入っている。行く気満々のようだ。
「じゃあ出発!」
「ニャー!」
マンションのエントランスを出ると、冷たい風が吹き付けた。春になってもまだ夜は肌寒い。
「寒……」
くんの腕に抱きつくと、くんは反対の手でわたしの頭を撫でる。
「まだ夜は冷えるな」
「ね……アイス食べたら寒くなっちゃうかな」
「温かいコーヒー淹れるよ」
「やった!」
あまーいバニラアイスと、くんが淹れたちょっとだけ苦いコーヒーの組み合わせ。冷たいバニラアイスと、くんが淹れた温かいコーヒーの組み合わせ。想像しただけで笑顔になってしまう。
わたしたちの家から歩いて五分のコンビニに着く。自動ドアを抜けて、真っ先にアイスコーナーへ。たくさんの種類のアイスはいつもなら目移りしてしまうけれど、わたしの今回のお目当てはカップのバニラアイスだ。ずっと頭の中にあったカップアイスをひとつ手に取る。中身は少ないけれどその分味が濃く上級なアイスだ。
「くんはどれにする?」
「うーん……チョコにしようかな」
くんが手に取ったのはカカオ多めのビター味なチョコアイスだ。モルガナちゃんは鞄から顔を出すと、にゃうにゃうとわたしたちに訴え始める。
「ワガハイにも一口くれ、だって」
「もちろん!」
「フニャ!」
もちろんもともとモルガナちゃんにも分けるつもりだ。ひとりで食べてもおいしいけれど、三人で食べればもっとおいしい。
お会計を済ませ、コンビニを出る。冷たい風に身を震わせれば、くんが肩を抱き寄せてくれた。鞄ごしにモルガナちゃんのぬくもりも伝わってくる。
「ニャーウ! ニャーウ!」
「アイス、アイス、だってさ。テンション高いな」
「ふふ。アーイース、アーイースっ!」
喜ぶモルガナちゃんに乗せられて、わたしも歌うように声を出す。夜中に三人で食べるアイスは、なんだかちょっと悪いことをしているみたいでわくわくして、ドキドキする。
「ね、くんの一口ちょうだいね」
「ああ。のも」
「もちろん!」
わたしのバニラアイスとくんのバニラアイス、アイスがふたつ入ったレジ袋をぶらぶらと揺らしながら跳ねるように街灯の下を歩けば、わたしたちの影も跳ねる。
とっても幸せな夜だ。