星に願いを




 今夜は流星群が流れる日だ。

、起きて」
「ん……」
、もう一時だ」
「一時……」
 くんの声で、浅い眠りから目を覚ます。眠い目をこすって、ベッドから体を起こした。
 今は夜の一時、起きるにはいくらなんでも早すぎる。けれど、今日は一時から流星群が見えるというのだ。だからわたしとくんは一度仮眠を取って一時に起きようと話していたのだ。
「コーヒー淹れたよ。目、覚めるかも」
「わ、ありがとう」
 くんからコーヒーの入ったマグカップを受け取った。温かなコーヒーが寝起きの体に染み入る。
「よく晴れてるね。これなら流星群も綺麗に見えそう」
 ベッドの上にぺたんと座って、ベッド脇の窓を開けた。見上げた空に雲はひとつもなく、瞬く星々がよく見える。
「ナア~」
「モルガナ」
 少し開いたドアの隙間を通ってモルガナちゃんがやってきた。モルガナちゃんも目をしぱしぱとさせ、眠気を隠せない様子だ
「ニャア?」
「いや、まだ見えない」
 モルガナちゃんはわたしとくんの間に入るとエジプト座りで夜空を見上げる。天気予報によるとそろそろ流星群が見える時間だ。
「あっ、見えた!」
 東の空にきらりと光が流れた。思わず流れ星の方向を指さすと、くんとモルガナちゃんが体を乗り出す。しかし言葉にしてからでは間に合うはずもない。
「にゃう~!」
「またすぐ流れる」
 窓台に前足をかけてしっぽを振るモルガナちゃんの頭を、くんがなだめるように撫でる。わたしもサイドテーブルにマグカップを置いて、窓から外をのぞき込む。またひとつ流れ星が流れたから手を組んでお願い事を心の中で唱えた。
「なにお願いしたの?」
くんとモルガナちゃんと、三人でずーっと一緒にいられますようにって」
 わたしの願いはいつもこれだけ。三人でいられるこの時間がずっと続いて欲しい。ただそれだけ。
「だってさ、モルガナ」
「にゃ、にゃーう?」
 モルガナちゃんは少し戸惑ったような声で鳴くと、ぺたんと体を伏せてしまった。どうしたのだろうと首を傾げていると、くんが笑いながら「照れてるだけ」と教えてくれた。
「ニャ、ニャウッ」
「ワガハイはオマエラが寂しそうだから一緒にいてやってるだけだぞ、だって」
 モルガナちゃんはくんとわたしを交互に見やりながら、大きくそしてうわずった声をあげる。しっぽをぱたぱたと振る仕草が可愛らしい。直接モルガナちゃんの言葉をわからないわたしでも、今の言葉が照れ隠しであることはすぐにわかった。
「ふふ、そっか。ありがとう」
「にゃう~!」
 心なしか紅潮したモルガナちゃんの額を撫でると、モルガナちゃんはくすぐったそうに体をくねらせた。
「あ、また流れた」
 くんの言葉に、わたしもモルガナちゃんも顔を上げる。連続して何度か流れ星が流れた。
「本格的になってきたな。すごい」
「ね……」
 夜空にきらきらといくつも流れ星が流れている。東京の空には珍しいほど溢れる星の光は、息を呑むほど美しい。
「俺もお願いしておこう」
 くんは目をつぶると少しだけ俯いた。夜空にはきらりと星が流れる。
「なにをお願いしたの?」
と同じ」
「にゃう……」
 くんの言葉に、モルガナちゃんはもじもじと体を揺らす。やはりまだ照れているようだ。
「ふーにゃ、にゃう」
「気が早いな」
 くんはくすりと笑うと、モルガナちゃんの頭をぽんと撫でた。どうしたのだろうと首を傾げていると、くんはわたしのものとお揃いのマグカップに口をつけた。
「ワガハイは三人じゃなくて増えてもいいぞって」
「へっ!?」
 くんが教えてくれたモルガナちゃんの言葉に、わたしの頬はかあっと熱くなる。増えるって、それは、その。
「俺はどっちでもいいよ。増えても、このままでも」
くん……」
「授かり物だし、どうなるかな」
 そう話すくんの表情は優しくて、わたしの胸はきゅうっと締め付けられる。
 くんとモルガナちゃんとわたしの三人で住むこの家に、いつか家族が増えたら。今はまだ考えられないけれど、そんな未来があるのかもしれない。なんだかくすぐったくて、わたしは毛布を頭までかぶった。
「わたしも……どっちでも」
 このままの三人のかたちが、いつまでも続けばいいと思っていた。でも、もしかしたら少し変わったりするのかな。それともずっとこのままかな。どちらでも、穏やかで幸せな毎日であればいいな。
「くしゅっ」
 ひゅっと窓から冷たい風が吹いた瞬間、反射的に小さなくしゃみが出る。三月に入ったとは言え、夜はまだ冷える。
「にゃーう」
 モルガナちゃんは大げさにため息をつきながらわたしの膝の上に座った。パジャマ越しでもモルガナちゃんの体温が伝わってくる。寒そうにしたわたしを暖めてくれているのだろう。
「仕方ねえなあ、ってさ」
「ふふ、ありがとう」
「にゃ~」
 モルガナちゃんを膝の上に乗せたまま、わたしはくんの肩に体を寄せた。
 また星が夜空を流れる。
 この先かたちが変わっても、変わらなくても、こんなふうに穏やかに過ごせますように。流れる星に願いをこめた。