キスがしたいの
ぽつぽつ、と小さく雨が降る。せっかくの休日は生憎の雨。ということで、今日はくんとモルガナちゃんと三人で部屋で映画鑑賞だ。くんの淹れてくれたコーヒーをテーブルに置いて、公開当時話題になった映画を再生し始めた。
しかし、いまいち映画にのめりこめない。最初こそ盛り上がったのだけれど、少し冗長というか、退屈な場面が続いているというか……。
「ふにゃ……」
モルガナちゃんも飽きてしまったのか、ソファの端で大きなあくびをした。そっと背中を撫でてみると、いつもはふわふわの毛が雨のせいかしっとりしている。ゆっくりと撫でていたら、いつの間にかモルガナちゃんからすうすうと規則的な寝息が聞こえてきた。
ちらりと視線だけを隣のくんに向けた。くんの目は真っ直ぐモニターに向いている。くんはこの映画おもしろいと思っているのかな。それなら邪魔するわけにはいかないし、わたしも映画を見ていよう。
「……」
しかし、やはり映画はわたしにとって退屈で、モニターを見てもいまいち集中しきれない。足を伸ばして指先を動かしてみたり、ソファの背もたれに体重を預けたり。再びくんへ視線を向ければ、くんの唇がかすかに動くのが視界に入る。
あ、キスしたい、な。ふと頭に浮かんだのはそんな小さな欲情だ。
キスしたい、な。でもくんは映画を見ているし、ダメかな。映画が終わるまであと一時間、我慢しないとダメかな。ちょっと長いな。
そんなことを考えながら、自分の両手の指を絡めた。一度頭に浮かんだ欲はなかなか消えない。うずうずと肩を揺らしながらまたくんに視線を向けると、バチッと目が合ってしまった。
「?」
「あ、え、ええっと」
くんがこちらを見るなんて思っていなかったので、突然のことにわたしはつい慌ててしまう。
「なにかあった?」
「え、えーと……」
キスがしたい、って言っていいかな。映画見なよって怒られちゃうかな。どう言うべきか迷っていると、くんは少し首を傾げながら口を開いた。
「キスしたい?」
「えっ!?」
くんの言葉にわたしはひっくり返る。なんで、どうしてわかったの!?
「な、なんでわかったの……?」
「なんとなく?」
くんはくすりと笑うと、わたしにキスを落とした。くんが飲んでいたブラックコーヒーの味がして、胸の奥がドキドキと強く鼓動を打つ。
わたしの心の中なんて、くんはいつだってお見通し。だってわたしの心はくんにずっと奪われたままだから。少し恥ずかしいけれど、くすぐったくて、嬉しくも思う。
唇が離れた後、そっとくんの胸に手を置いた。くんの胸もドキドキしてる。
「くんも……」
「ん?」
「キスしたかった?」
わたしの問いに、くんはキスで答える。くんも、きっと同じ気持ち。
いつの間にか雨は上がっている。映画はまた今度かな。くん、今日は二人でくっついて過ごそうか。