地元の恋人/3


 三月二十日。今日はくんが帰ってくる日だ。この十分で何度スマホを確認しただろう。チャットの「もうすぐ着く」というメッセージを受け取ったのは五分前。駅前のベンチでスマホを握りしめながら改札口を何度も見つめた。

「わっ!」
 突然後ろから話しかけられて、驚いて振り向いた。そこにはくんの姿がある。
くん、なんで? 駅から来るかと……」
「ごめん、友達が車で送ってくれたんだ」
 くんはわたしの隣に座ると、わたしの肩を抱き寄せた。
「ただいま」
「おかえり、くん」
 くんに体を預けて目をつぶる。本当に、本当にくんは帰ってきたんだ。
「本当、どうなることかと思ったけど」
 くんの保護観察期間は一年だった。一年の間に問題を起こさなければこちらへ戻ってくる。期間が決まっていたから遠距離だって耐えられると思っていたのに、この一年は想像以上に山あり谷ありだった。
「まず十一月にくんが死んじゃったかと思ったでしょ」
「それは悪かったって思ってる。でもまさか東京に来るなんて」
「だって」
 去年の十一月、怪盗団のリーダーが自殺したという報道があった。怪盗団が主に活躍していた東京とは離れた場所であるここでもその件は速報として取り上げられた。そのニュースの中で怪盗団のリーダーは「保護観察処分で地元を離れた高校生」と報道された。怪盗団が最初に現れたのはくんの通う秀尽だとわたしも聞いていたので、どうしてもくんを想像してしまったのだ。くんに電話をかけても電源が入っておらず連絡を取ることもできなかったので、いてもたってもいられずに次の日は学校を休み始発で電車に飛び乗り東京まで来てしまったのだ。
「部屋に帰ったらちゃんと説明しないとって思ってたんだけど、帰ったらが部屋にいるからびっくりしたよ。宿も用意してないのにいきなり来るとは思わなかった」
「ルブランの前でうろうろしてたら佐倉さんが来てくれて、中で待ってなって言ってくれて」
「心配させて悪かったって思ってる」
「それに年末には少年院に入るとか言い出すし」
「それも……悪かったって思ってる」
「本当だよ!」
 クリスマスイブに「怪盗団の件で出頭するから少年院に入ることになると思う」とチャットが来たときの感情は、ショックだなんて言葉では片づけられない。動揺して、うろたえて、大泣きして、またわたしは東京までの電車に飛び乗ってしまった。
「でもちゃんと、あの件も無罪が証明されてよかった」
「うん、よかった。なかなか冤罪だったって浸透するのは難しいかもしれないけど、これでも堂々としていられる」
くんもね」
 あの傷害事件が冤罪だったと証明されて一ヶ月以上がたった今でも、ここではまだくんのことを犯罪者扱いする人ばかり。それでも少し、少しだけれどわかってくれている人もいる。これからそういう人が少しずつでも増えていけばいい。
にも一年間、寂しい思いをさせたと思う。でも、もうずっと一緒だから」
「うん」
 くんに体を寄せて、身を任せる。
 夏休みに再会したとき、くんは強くなったと思った。くんが遠くに行ってしまったような気がした。その感覚はきっと間違ってはいなかったと思う。実際くんは東京に行ってから怪盗団なんてことを始めて多くの経験をしたのだから。
 けれど、一番大事なところはなにも変わっていなかった。冤罪を受けた事件のときのように、くんは誰かを助けるための優しさを忘れていなかった。
 そして、わたしのことも。強くなったくんに置いて行かれてしまうのではと不安になったこともある。けれど、くんは遠くへ行っても決してわたしを置いていくことはしなかった。わたしのことをずっと好きでいてくれた。きっと、わたしが追いつくのを待ってくれているのだろう。
 くん、待っていてね。わたしもきっと、強くなるから。