よいお年を



 今年もまた大晦日がやってきた。くんと手分けした大掃除も無事終わり、残すは最後の仕上げのみだ。
「にゃっ、にゃう!」
「モルガナ、焦るなって」
くん、そっち持った?」
「ああ」
 興奮するモルガナちゃんをなだめながら、くんとお布団の端と端を持つ。布団の上に天板を乗せたら出来上がりだ。
「モルガナちゃん、こたつだよ!」
「にゃっふ~!」
 モルガナちゃんは高い声で鳴きながらこたつ布団の中へと潜り込む。くんが「まだ暖かくないぞ」と言ったけれどお構いなしの様子だ。
 以前からくんと「こたつ欲しいね」と話していたけれど、大晦日の今日ようやく実現した。モルガナちゃんには今日まで秘密にしていたけれど、サプライズに大喜びしてくれてわたしも嬉しくなってくる。
「今スイッチ入れるね」
 こたつの電源を入れると、足下がじんわり温まってくる。こたつを導入するか迷っていたけれど、いざこたつに入れば迷っていた時間がもったいないと感じる。これは簡単に抜け出せそうにない。
「猫はこたつで丸くなるって本当だな」
「にゃー!」
 くんの言葉にモルガナちゃんは口を大きく開けて不満げな様子を見せる。わたしにはモルガナちゃんの言葉はわからないけれど、今回だけはわかる。「猫じゃねーし!」と言っているのだろう。
「モルガナちゃん、潜ってるとやけどしちゃうかもしれないから気をつけてね」
「にゃーっ!」
「また猫じゃないって言ってる。でも人間でも低温やけどすることあるらしいぞ」
「にゃ……」
 そう言われてはモルガナちゃんも反論できないのだろう。モルガナちゃんは顔だけでなく体を半分ほどこたつから出した。
もこたつで寝ないよう気をつけて」
「う……くんも」
「ああ」
 気をつける、と頷いたものの、こたつはあまりに心地よくて簡単に抜け出せそうにない。こたつに深く深く潜り込んでしまう。
「あ……」
 ふと窓を見れば、外には雪がちらついている。寒い寒いと思っていたけれどまさか雪とは。天気予報では雨だったけれど、もしかしたら積もるかもしれない。
くん、モルガナちゃん、雪だよ!」
「にゃう!」
「後で外出てみようね」
「にゃ……」
 わたしの言葉にモルガナちゃんはしゅんと体をしゅんと小さくする。その様子を見たくんが「こたつで丸くなる……」と呟いて、モルガナちゃんは頬を膨らませる。
「ふふ」
 ふたりの様子を見ていると、思わず笑みがこぼれてしまう。年末でも我が家は相変わらずだ。
 正方形のこたつで足を伸ばせば、つんと足先がくんに当たる。柔らかな肌の感覚がくすぐったい。
「えい」
 足の指先でくんの足の裏をつつくと、くんはいつものポーカーフェイスを動かして目を丸くする。調子に乗って何度もつんつんとつついているうと、くんが足の指でわたしの指を挟んできた。
「わっ」
「仕返し」
「う……」
 くんはいたずらっぽい笑みを見せてくる。その笑みが妙に色っぽくて、わたしは恥ずかしくなってこたつ布団に顔を埋めた。
 くんはこたつの上に乗せたみかんを手に取ると、綺麗に剥き始める。その様子をじっと見つめていたら、くんがみかんを一房わたしのほうへ差し出してきた。
「ん」
「ありがと」
 くんがわたしの口に放ったみかんを頬張る。酸味と甘みのバランスが取れたみかんはおいしい。
 くんとモルガナちゃんと、穏やかな時間が過ぎていく。年末とは思えない優しい時の流れに、なんだか頬が緩んでくる。
くん」
「ん?」
「来年もよろしくね」
 今年も一年、くんと一緒でとても幸せで楽しかった。来年も、こんな一年になりますように。
「こちらこそ」
「にゃっ!」
「もちろん、モルガナちゃんもね」
「うにゃ」
 こたつから顔を出すモルガナちゃんの顔をよしよしと撫でる。来年も三人でこうやって過ごしていたい。
「そろそろ夕飯作るか。年越しそば」
「うん。モルガナちゃん、エビ天もあるからね」
「にゃう~!」
 喜ぶモルガナちゃんを撫でてこたつを出る。足下の温もりが名残惜しいけれど、さっと用意して戻ってこよう。
 くんと並んで台所に立つ。いつの間にかこうやって一緒に料理を作ることも当たり前になった。
 くん、モルガナちゃん。来年も、その先も、ずっとずっとよろしくね。