きらきら光る
くんと暮らし始めてから初めて過ごすクリスマスイブ。ふたりともアルバイトが外せなかったので、終わった後に待ち合わせをして街を歩く予定だ。
寒空の下、約束の場所でくんを待っていると、周囲にわたしと同じようにあたりを気にする人々の姿が目に入る。ここにいるみんな誰かを待っているのだろうか。今か今かと焦がれた相手が来るのを心待ちにしているのだろうか。つんと冷えた空気の中で、この辺りだけ少し温度が高く感じられる。
鞄からスマホを取り出して時間を確認する。くんからバイトが終わったという連絡をもらった時間を考えるとそろそろ来てもおかしくない時間だ。
そわそわと駅の方角を見つめていると、人混みの中に見慣れた影を見つける。
「くん!」
待ちわびた相手にようやく会えたうれしさで、思わずくんの方へと駆け寄ってしまう。
「、ごめん。待たせた? うわ、冷たい。どこか入っててもよかったのに」
くんはわたしの頬に触れると驚いた声を上げる。確かにいつもは冷たいくんの手がほんのり温かく感じるぐらいには冷えてしまったようだ。
「はい」
くんはぎゅっとわたしのマフラーを巻き直す。口の辺りまでもこもこに巻かれてしまって、温かいけれど苦しい。
「くるしー……」
「はは」
「……面白がってる?」
「ごめんごめん」
マフラーを緩めるくんはおかしそうに笑っている。くん、こういうところ結構お茶目だ。
「行こう」
くんはわたしの手袋を外すとその手を握り、優しい眼差しを向けてくる。お茶目でちょっと意地悪だけれど、こういところかっこよくてどうしようもなく好きだと思う。
「うん」
手を繋いだままくんに体を寄せると香るのはくんのいつものにおいだ。優しい香りに包まれながらイルミネーションに輝く町へと歩き出す。白や橙といった優しい色で彩られた街路樹はきらきらと輝いていて、イルミネーションを見つめるくんの瞳も光が映って煌めいている。
「どこ見てるの?」
イルミネーションを見上げるくんが、視線だけこちらに移して口角をあげる。からかうような意地悪な笑み。わたしは恥ずかしくなってマフラーで顔を隠した。
「……くん」
「イルミネーション見に来たんだろ?」
「そうだけど、くんとふたりで見るの楽しみにしてたから」
イルミネーションは今月の頭からやっているからアルバイトや大学の帰りに見ることはあった。でも今日は特別だ。だって隣にくんがいるのだから。今日の約束をした日からずっと楽しみにしていたのだ。
「そっか」
くんは頷くと同時に顔を緩める。俺も楽しみにしてたよ、そう言って繋いでいない方の手でわたしの瞼の下を撫でた。優しい指先が少しくすぐったい。
「目、キラキラしてる」
「くんもだよ」
「そう?」
少し照れくさそうに前髪をいじるくんがかわいくて、わたしの頬も緩んでしまう。わたしの目がきらきらしているのなら、それはきっとイルミネーションだけが理由ではない。
「ね、広場のツリーにハートマーク隠れてるんだって」
すぐ目の前の広場の真ん中にそびえ立つ大きなクリスマスツリー。そこにあるハートのオーナメントをカップルで見つけるずっと一緒にいられるとか。よくある話はあるけれど、やはり耳にすれば心が躍ってしまう。
「へえ、どこだろ」
「探してみようよ」
くんの手を引いて広場に入れば、おそらくわたしたちと同じことを考えているであろうカップルの姿が目に入る。わたしもツリーの目の前でじっと目を凝らした。
「あ、あった」
「え、早い!」
一分もたたないうちにくんは声をあげた。こういうの得意なのは知っていたけれど、本当にめざとい。
「ええ……こっち側ってことだよね。どこだろ」
「教える?」
「自分で見つけたい!」
「言うと思った」
くすりと笑うくん。その隣でわたしは必死に目を細めて凝視するけれどなかなか見つけられない。
「ヒントいる?」
「うーん……いる」
「上半分」
「上……あった!」
上から三分の一の辺りに、小さなハートのオーナメントが光っているのが見えた。きっとあれに違いない。
「あった、あれだよね? あの雪だるまのとなり!」
「うん、そう」
「よかった、見つけられて」
「そんなに見つけたかった?」
くすくすと笑うくんの声はまるで小さい子供を見るかのような声色だ。わたし、そんなにはしゃいでいただろうか。なんだか恥ずかしくなってマフラーに顔を埋めた。
「だって、見つけるとずっと一緒にいられるって言うから」
単なる作り話とはわかっているけれど、それでもそう言われたら見つけたくもなる。だってくんとずっと一緒にいたいから。
「見つけなくてもずっと一緒だよ」
くんの優しい声にぱっと顔をあげる。くんっていつもこう。恥ずかしくなるような言葉をまるで挨拶でもするかのようないつものトーンで紡いでしまう。そんな飾らない普通の話し方だから、それが心からの言葉だと感じられてわたしはいつも嬉しくなるのだ。
「それは……そうだけど、でもやっぱり見つけたいなって」
「うん、そう思ってくれるの嬉しい」
くんの冷たい手が頬に触れた。あ、キスしたい、な。そんなことを思ってしまうけれど、こんな往来でそういうわけにはいかない。
「ずっと、ずっと一緒だよ」
その代わりにそっと体を寄せた。小さな隙間ももどかしい。ずっとずっと一緒にいたい。もうほんの少しだって離れたくない。くんの隣にいたい。
「うん」
くんが温かい声とともにわたしを抱き寄せる。
イルミネーションがきらきら光って、わたしたちを照らしていた。